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博多っ子純情

博多っ子純情


博多ッ子
博多っ子純情 長谷川法世著1~34巻 双葉社

今度は長編である。
教養小説というのがある。主人公が多くの出来事を経験して、大人になっていく様子を描いた話しである。このマンガもマンガではあるが、まさにその名前にふさわしい作品である。
この作品は昭和51年からほぼ8年にわたり、週刊マンガアクションで連載された。これをほぼリアルタイムで読めた自分は幸せであった。

舞台は博多。博多の男達が命を捧げる祭り、博多山笠。それを時間の軸として、主人公の博多人形師の息子郷六平が、ガールフレンドの小柳類子や親友の阿佐道夫や黒木真澄とおりなす人生模様を縦軸に、博多の風物詩を横軸にして物語りは展開する。

六平は中学生。親友達と共に一番の関心事は性のこと、この作品中ではコペルニクス的転回(コペ転)と呼ばれているセックスである。
当たり前の中学生なら当然興味を示すであろうそのこと。そういう話題を中心に、受験、年上の女性との決別、高校での下級生妊娠騒動、ラグビー部の全国大会、浪人中での類子との初体験、父親の病気、そして父の後を次いで博多人形師になろうと決意するまでの主人公の成長が描かれる。

毎回のタイトルには博多弁、もしくは博多の風物が使われている。そしてその号ではそのタイトルに沿って話しが作られていく。そのあたりの演出も凝っている。この話しを読むと、博多の事がわかったような、自分も博多へ行って、山笠をかついでみたいような気持ちになる。

印象的な場面を拾ってみよう。

第64話は殆どモノローグで描かれる。表題は「にんにんしゃん」である。これは人形と言う意味の博多弁だそうだ。

中学を卒業した六平は、高校入試の発表の日に、同じ県内でも遠くへ引っ越した隣の姉ちゃんを訪ねていく。彼女は六平の憧れ、初恋の人。しかし、数年前に六平の好きだった兄貴分の穴見さんと駆け落ちをして、穴見さんは事故で死に、子供を身ごもって実家へ戻ってきて悲嘆にくれていた彼女を六平は「自分がお姉ちゃんと結婚して、子供も養うけん・・」と叫んでしまうのだ。しかし、それで生きる決意をした彼女は、知りあいと結婚して遠くへ行ったのだった。hakata1

高校生になる前に、一度だけ彼女に会いたかったという六平は、自分の作った穴見さんの人形を生まれてばかりの赤ん坊にそっと見せる。「ほうらよく見ときんしゃい、これがあんたののお父ちゃんのにんにんしゃんばい・・」と。家から出た六平は、姉ちゃんの住む家が見える小高い丘に登り、穴見さんの人形を埋める。そして穴見さんや姉ちゃんの事をもう忘れるようにする、そういう決意を人形に伝えるのである。

第242話の表題は「だんだん」である。これはもうお年寄りしか使わない博多弁であるが、「ありがとう」の意味であるらしい。
19才になった六平と類子は初体験の為に、二人で旅行に出かける。その顛末はほぼ10話にわたり描かれるが、その最終の場面がこの回である。
二人の初体験は、細緻に、そして美しく描かれる。この大きな宇宙の中でたったふたり、その二人が結ばれる様子が。
全てが終わった後六平が、そして類子がお互いに言うのだ「だんだん」と。
何て美しい言葉であろうか。
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第371回の「おる」(これは居ると言う意味です)と「追善山」は続きの話しである。追善山とは、山笠の為に貢献した人が亡くなったら、その人の家に山笠を止めて「祝い目でた」の歌を合唱する、そういう行事である。
人形師である六平の父親は、脳卒中で倒れて手術をしたがその後意識が戻らない、そのような状態で彼は人形師の後を継ぐ決意をする。そして、自分に出来ることは何かと考えたら、山笠を人形にすることだと思い当たる。その為にはどんな事をしてでも山笠に出なければならない。それを聞きとがめた親戚の叔母さんと言い合いになる。
「親孝行とは、親の言うとおり、考えるとおりなることですか?」
「そんな人間信用できん。人の言いなりになる人間がどこが良かかですか」
「俺は自分でレールばしいていく、それが俺の親孝行たい」
という彼に対して、
「そげなこと、親が大変な時に山笠やら出て、そげんことしよったら、人が何ていうね」と言う叔母。
「おばちゃん、俺は親が死にそうな時に山笠にでるばい。親の命と引き替えにでも出らんならん山笠で、人の目を気にする人間がどこにおるな!」
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そして次号の「追い善山」では、彼はまだ生きている父親に追い善山をしに行く。父親と決別するためにである。水法被を着て、締め込みを締め、山笠の正装の恰好で病院に寝ている父親の枕元へ行き、山笠の祝い歌を歌うのだ「祝い,めでたの若松様よ~、枝も栄りゃ葉も繁る~」と。
叔母に頬をぶたれながら、類子の見守る中、涙を流しながら唄う六平。その時奇跡が起こるのだ・・。

以上、好きな場面をいくつか書いたが、それ以外にも、高校2年の時の下級生妊娠事件の学校裁判、ラグビーの全国大会の雪の中の死闘、父親の浮気に苦しみながら、類子の姉さんとホテルまで行ったことなど、みどころの場面は多い。

そしてまた夏が巡り山笠の季節になるところで物語りは終わる。

絵も達者である。博多弁の言い回しと、独特の絵、最初の頃のちょっとエッチな内容(女性には)に慣れると34巻は早い。
古本屋で探してみて欲しい。(うちの奥さんはこれを読むと咳とくしゃみが出るそうだ。どっかで新刊で出してくれないかな)




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